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大阪家庭裁判所 昭和46年(少)35273号 決定 1971年10月23日

少年 S・Y(昭二七・一・二〇生)

主文

少年を保護処分に付さない。

本件につき参考人二名に支給した旅費および日当の全部(総計金一七四八円)を少年から徴収する。

理由

第一非行事実および適用法条

(非行事実)

少年は昭和四六年一月二二日午後四時ごろから約一五分間、大阪市西淀川区○○町××××番地先交差点内に普通乗用自動車コロナ・マークII(大阪××ね××-××号)のリア・シートより後部を残し、交差点の側端から五メートル以内に東向きに駐車させていたものである。

(適用法条)

上記事実は道路交通法四四条一号、二号に包括的に一回違反し、同法一二〇条一項五号に該当する(なお、送致事実は交差点内駐車のみを掲げるが、上記の如き認定がこれと基本的事実の同一性を有しないものとは考えない)。

第二事実認定の理由

(少年の言い分)

少年の司法警察員に対する昭和四六年一月二五日付供述調書によれば、少年は取調の三日前である同月「二二日は朝から○○会館でパチンコをしており、午後七時頃車のところに帰つたときは駐車違反の紙もなく、当日のことについては気にとめていませんでしたので、警察官の言われるような所に駐車させていたかどうかわかりません。もちろん私は当日パチンコの間中、近所の道路上に駐車させていたことについては間違いありませんが、どこに駐車させていたかは日もたつていますのではつきりしません。従つて今日呼び出され、駐車違反だと言われても、交差点に駐車させることは違反だと言う事は良く知つていることですし、自分としては違反の場所に駐車させるわけはありませんので、〔交通事件原票中の供述書欄に〕署名するわけにはいきません。」というのである(引用文中、〔〕内は補つた)。

少年の同年九月二二日の審判廷における供述(およびその直前に当庁吉岡調査官に対してなされた供述)も上記と同趣旨であり、少年が当時乗つていた車がコロナ・マークII(大阪××ね××-××号)であることも確認された。

(捜査の状況)

本件交通事件原票中の浜崎司法巡査作成の同年一月二五日付違反現認・認知報告書、同月二二日付実況見分調書、同月二六日付捜査報告書および参考人浜崎俊夫、同森本三郎が同年一〇月八日、当裁判所に対してなした各供述をそのまま採用すれば、

(1)  浜崎俊夫、森本三郎の両名は、同年一月二二日午後四時前、警暹のため○○○署○○派出所を出発し、○○町付近を通りかかつたところ、同日午後四時ごろ、同町××××番地先交差点内に前記の車輌がリア・シートより後部を残したまま道路上に東向きに駐車しているのを現認した。扉の鍵は施錠してあり、パーキング・ブレーキがかかつていて、車を押しても動かなかつた。両名は付近で運転者を探したが見当らなかつたので、駐車時間を約一五分間測定し、上記車輌のフロント・がラスの助手席側に、○○派出所まで出頭するよう記入した、いわゆる紙スティッカー(駐車違反呼出状)を所携の糊で貼付し、次いで実況見分を実施した(なお、いわゆる鍵スティッカー、即ち駐車違反現認票を運転席側フロント・ドアに施錠したという参考人浜崎俊夫の供述は他の証拠に照らし、明きらかに勘違いと思われる)。

浜崎巡査は○○○派出所に戻つて、右川橋自動車試験場に車籍照会をしたところ、前記車輌の所有名義人が肩書住居地に登録住所を有する少年であることが判明した。

(2)  浜崎巡査は同月二五日午後五時ころ、前記違反場所の付近で同月二二日とほぼ同様に駐車している前記車輌を発見し、運転者を探したが見当らなかつた。そこで○○○派出所に帰り、少年の登録住所を管轄する○○○署○○○派出所に少年の居住の有無を照会したところ、居住の事実と家の電話番号の回答が得られた。浜崎巡査が少年方に電話したところ雇人が出て、少年が会社に出勤して不在である旨述べたので○○○派出所への出頭を求める旨伝言を依頼した。

浜崎巡査は駐車場付近にはパチンコ店が並んでいるが、会社らしいものが見当らないので不審に思い、パチンコ店○○会館に赴き、場内マイクロフォンで少年を二回呼び出して貰つたところ出て来たので○○○派出所までの同行を求めた。同日午後六時に同所で浜崎巡査は少年に駐車違反の告知書-番号(N)七五五九三六号を交付したが、供述書への署名押印を拒否されたので、事件を本署交通係の光武巡査部長へと引き継いだ。光武巡査部長は前述のとおりの内容の少年の同日付供述調書を作成した。

(3)  本件に関しては、反則金三、〇〇〇円および送付費用一四五円を同年四月二七日まで納付すべき旨を指示した通告書が大阪府警から同月一四日発送され、翌一五日少年の下に到達した。右期限までに反則金の納付がなかつたため、同年五月二一日、本件が当庁に送致された。

以上の事実が認められる。

(判断)

少年が同年一月二二日に前記交差点付近のいずれかの場所に前「  」動車を駐車させたままにしておいたこと、同日午後四時現在、同車の扉に施錠がされており、パーキング・ブレーキがかかつていたこと、少年が当日朝から夕方七時ころまで交差点付近の○○会館でパチンコをして遊んでいたことは上記の事情から確かな事実であると思われる。参考人森本三郎の前記の供述によれば、少年は同人に対し、エンジン・キーは一個しかなく、他人に貸した事はないと言明したというのであり、本件においてはこれに反するような事情が窮われない。そうすると少年が駐車させた前記車輌は少年が再び乗車するまでに位置を変えたことがなかつたということになり、問題は少年が最初にどの場所に駐車させたかという点にのみある。この点に関する少年の主張は記憶がないというのみで曖昧であり、これに対し、前述のとおりの浜崎巡査らの供述は遙かに確実と思われる。また前記交差点付近で車輌を東向きに駐車させて○○会館に向かうには車の後部を回りながら西進しなければならないので、少年は駐車位置が交差点内にかかつていることを十分認識していたものと考える(なお、過失犯についても罰金額は同じである。道路交通法一二〇条二項)。

よつて前記非行事実欄に記載したとおりの認定に達した次第である。

第三不処分の理由

本件事案そのものは反則金額三、〇〇〇円という比軽的軽微な道路交通法違反保護事件である。

少年の非行歴を調査したところ、少年は昭和四五年一〇月一八日、大阪市内において右折禁止違反を犯し、同日告知書-番号(N)六八四四四七号を交付され、反則金四、〇〇〇円および送付費用一四五円を同年一一月二六日までに納付すべき旨を指示した通告書が大阪府警から同月一三日発送され、翌一四日少年の下に到達し、右期限までに反則金の納付がなかつたため、同年一二月二二日、事件が当庁に送致され(この間、本件駐車違反が発生し、)昭和四六年一月二七日、調査官の調査を経て、即日納付指示審判が行なわれ、納付期限である同年二月六日に反則金額が納付された。以上の事実が認められた。

少年が昭和四五年八月八日に普通免許を取得して以来、反則金不納付事件は本件で二回目であるが、他に一般および道路交通保護事件が係属した事実はない。

かような次第で、少年の性格の矯正および環境の調整を目的とする保護処分、或いはこれを前提とする試験観察に少年を付することは時機尚早であり、当を得ないと思われるので、今回は少年を保護処分に付さないこととする。

第四費用徴収の理由

本件において当裁判所は別紙「参考人に支給した費用の内訳」表のとおり、参考人二名に旅費および日当、総計金一、七四八円を支給している。これらの全部または一部を少年または扶養義務者から徴収すべきか否かが問題であるが、まず、少年法三一条一項の趣旨とするところを考えなければならない。

同条項が立替金請求的性質と徴戒的性質のいずれを有するのかが学説上争われ、両者の性質を有すると解する説が有力であるが、当裁判所は同条項は刑事訴訟法一八一条と同性質の立替金請求的性質を有するものであると解する。しかし、費用の徴収が妥当であるか否かを裁量するに当り、当該費用の支出と少年ないし扶養義務者の懈怠との因果関係を考えることが教育的見地からも望ましいことと思われる。

そこで本件につき考えると、少年は吉岡調査官の七回余りに亘る葉書または電話による呼出しに応ぜず、ようやく昭和四六年九月二二日に当庁に実父と共に出頭して調査に応じ、即日、当裁判所の審判を受けた。審判において少年が駐車違反の事実を争つたため、当裁判所は駐車位置、いわゆるスティッカーの貼付状況、実況見分調書の作成経過等を明きらかにするため、証人浜崎俊夫、同森本三郎の尋問を次回期日に行なう旨職権で決定し、少年に告知した。次回期日は少年の都合を聞いたうえ、同年一〇月八日午前一〇時に指定された(なお、少年に対する呼出状は特別送達に付された)。

しかし、それまでの経過から少年の出頭が危ぶまれたので、同月七日に次いで、同月八日の朝も当庁因野書記官が少年宅に電話連絡したところ、少年の母が少年は父母の不出頭を条件に出頭する旨申しているとのことであつたので、因野書記官は少年の出頭のみを指示した。

当裁判所は指定された午前一〇時を三〇分過ぎても少年が出頭しないため、証人尋問を行なわず、参考人尋問に切り替えた。

以上の次第であつて当裁判所がなした参考人尋問は少年に反対尋問権を確保させる目的で採用された証人尋問が少年の無断不出頭の一事により行なえなくなつたために已むを得ずとられた措置であり、事実確定のため必要であつたものである(証人尋問決定は同月一五日、保護者の意見を聴いたうえで取り消された)。従つて裁判所が参考人二名に支給した別紙記載の費用の全部を少年から徴収することは少年法三一条一項に照らし適法であるのみならず、有職者であつて、反則金三、〇〇〇円の不納付に経済的負担等のさしたる理由がなかつた少年から前記費用を徴収することは叙上の経緯を考慮すれば必要な措置であると考える。

第五結論

よつて少年法二三条二項、三一条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判官 太田幸夫)

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